藤の街クリニック

下肢静脈瘤とは

下肢静脈瘤とは

下肢静脈瘤とは

静脈とは心臓に戻っていく血液が流れる血管ですが、特に下肢では重力に逆らって血液を戻さなければいけません。静脈にはそれを可能にする逆流防止機構が存在し、これを静脈弁と言います
静脈弁がうまく閉まらなくなると、本来は心臓へ戻っていくはずの血液の一部が停滞してしまいます。そして、停滞した血液により静脈内圧が上がった状態が続くと、静脈が押し広げられて膨らんでしまいます。この、停滞した血液により静脈が拡張・変形した状態を静脈瘤と呼びます。静脈瘤は体のほかの部位にも出来ますが、特に下肢に生じた静脈瘤を下肢静脈瘤と呼びます

下肢静脈瘤


下肢静脈瘤の4つのタイプ
  • ・伏在型
  • 下肢には色々なサイズの静脈が存在しますが、なかでも伏在静脈と呼ばれる中サイズの静脈自体が拡張したものを指します
    伏在静脈には下肢の内側に存在する大伏在静脈と、ふくらはぎに存在する小伏在静脈の2種類があります

  • ・側枝型
  • 伏在静脈につながる小サイズの静脈が拡張したものを指します
    伏在型に併発することが多いため、きちんと検査を行い、伏在型が隠れていないかを確認しなければいけません

  • ・網目状
  • 皮下に存在する非常に細い静脈が拡張したものを指します。概ね直径2mmまでの毛細血管が本体とされます

  • ・クモの巣状
  • 皮膚のなかの非常に細い静脈が拡張したものを指します。概ね直径1mmまでの毛細血管が本体とされます

この中で、むくみやだるさなどの症状につながるのは伏在型だけで、ほかの3つのタイプは一時的に痛みや熱感などを感じることはあっても、長く続いたり重症化することはありません。ただし、伏在型を合併していることがあるため、逆流の評価を行うことが推奨されます

下肢静脈瘤を発症する主な原因
下肢静脈瘤は主に静脈の逆流防止弁の機能不全が原因ですが、その機能不全を引き起こす背景について、以下に記載します。 基本的に静脈弁への負担が中長期的に続くことが共通していますが、別に、先天的な原因や体質・遺伝性も指摘されています。 また、下記の通り、残念ながら下肢静脈瘤はその疾患性格上、再発する疾患です

  • ・妊娠や出産経験のある女性
  • 一般的に、女性のほうが下肢静脈瘤になりやすいことがわかっています。理由は、足の筋肉量が少ないことや、ホルモンバランスの影響などが指摘されています
    さらに、妊娠や出産は静脈弁への負担を増やす原因になりますので、妊娠・出産回数が多いほど、発症・悪化につながる傾向があります

  • ・立ち仕事やデスクワーク
  • 先に記載したとおり、長時間の立ち仕事は重力の影響で血液の停滞を招きます。また、同じ姿勢で長時間を過ごすことも、静脈弁への負担が増える原因になります

  • ・生活習慣や肥満症
  • 喫煙や高血圧症、脂質異常症、糖尿病などの一般的に動脈硬化を生じる因子は、同じく静脈にも影響を及ぼすことが指摘されています。 さらには、便秘症や肥満症、日常的な運動不足による下肢筋力低下なども静脈内圧が上昇する原因となりますので、静脈瘤発生のリスクが上昇します

  • ・加齢
  • 年齢を重ねるにつれて体の色々な機能が低下してくるわけですが、静脈弁についても例外ではありません。 下肢静脈瘤は特に60〜70代の発症率が高いことがわかっていますが、これには運動量の低下から足の筋肉量低下を招き、筋肉のポンプ作用が低下するためです

  • ・外傷
  • 激しい運動や事故などで足に怪我をした際、血流の変化や静脈自体の損傷を起こしたことで、のちに静脈瘤を併発する例があります

  • ・先天性や遺伝的要素
  • 生まれもって静脈弁の力が弱い場合や、血縁者に下肢静脈瘤を患った人がいる場合など、必ずしも静脈弁への負担だけが発症の原因ではないという指摘もあります


下肢静脈瘤の症状と影響
  • ・審美性
  • 時間の経過に伴い、拡張した静脈がどんどん太くなる場合があります。特に伏在型に特徴的なのですが、女性の場合は恥ずかしくてスカートが履きにくいなどの見た目の問題につながりがちです

  • ・むくみ
  • 足に血液が停滞することで、リンパ液も同じく停滞しやすくなります。血液やリンパ液が停滞すると、血管内・リンパ管内から水分が染み出しやすくなり、それが浮腫を招くようになります

  • ・だるさやこむら返り
  • むくみにも関連するものですが、血液の停滞により、本来は酸素や老廃物の運搬という血液の本来の仕事も停滞してしまいます。これが筋肉の疲労回復にも影響し、倦怠感やこむら返りも生じやすくなるとされます

  • ・皮膚障害
  • 下腿浮腫の原因は心機能や腎機能の低下、甲状腺機能低下症、肝疾患、関節症など多岐にわたりますが、共通した影響として、血流やリンパ液の停滞が皮膚の炎症を引き起こします
    これをうっ滞性皮膚炎と言い、その程度により、かゆみや痛みを伴ったり、長期の経過になると皮膚が黒く変色する(色素沈着)などの不可逆的な影響を生じるようになります。 最終的には皮膚が壊死する皮膚潰瘍に至ることもあります

  • ・静脈炎や血栓症
  • 拡張した静脈内には血液が停滞しているわけですが、ここに細菌感染を来たすことがあり、腫れて強い痛みを生じます。多くは静脈瘤の中に血栓を伴います。 このような状況は再発防止の観点からも積極的な治療の対象となります

下肢静脈瘤の診断
下肢静脈瘤の検査は主に超音波検査です。ある程度、視診や触診では解剖学的にどこの静脈が拡張しているかを判断できますが、体の中まで正確に評価することは出来ません。 そのため、超音波検査で膨らんだ静脈の状況を確認するとともに、何より、先述の伏在型が隠れていないかを調べます。具体的には、逆流の部位や程度を確認することが治療方法の選択に必要です


下肢静脈瘤の治療適応
治療が必要かどうかの判断基準は大きくは次の3点です
  • 1つ目はすでに症状を伴っているかどうかです。むくみや痛みの原因になっている場合は積極的に治療を検討します
  • 2つ目は静脈瘤による悪影響が生じている場合です。これは先述の皮膚障害や静脈炎を起こしているといった状況が当てはまります。 目の前の問題の解決が最優先にはなりますが、長期的な観点から、将来的な再発や病状悪化の防止を視野に根本的な問題解決を図らねばなりません
  • 3つ目は審美性です。特に女性の場合は見られたくないと思う方が多く、スカートが履けない、プールに行けない、など、露出に抵抗を感じる場合は治療を検討してよいと考えます


下肢静脈瘤の治療方法
からだの構造を考えると、細い静脈は合流を繰り返しながらより太い静脈に変化していくわけですが、最終的に上半身の静脈は上大静脈に、下半身の静脈は下大静脈になり、それぞれ心臓へ戻ります。そして、静脈血は心臓を経由して肺へ到達します
下肢静脈瘤は基本的に伏在静脈やそれに合流する静脈に発生します。局所的に静脈弁が壊れて静脈瘤になっている場合はその部位だけを治療すればよいのですが、 伏在静脈そのものに支障が生じている場合は必然的にそれにつながる静脈も影響を受けていますので、先述のように伏在型は時間の経過で病状が進行して色々な影響が生じるというわけです
これらを踏まえますと、静脈瘤の治療戦略の大前提は伏在静脈の減圧を得ることであり、言い換えると、最も重要な目的なのです。治療は大きく分けて局所治療と、「伏在静脈の減圧を得る」ために行う根本治療に分かれます
残念ながら、壊れてしまった静脈弁はもとには戻らないので、下肢静脈瘤は自然治癒することは基本的にほとんどありません。 検査で得られた情報に加え、先述の治療適応を加味し、治療方法を検討しましょう。 ただし、病状によって判断が異なる場合があるものの、医療保険の取り扱い上は、硬化療法や静脈瘤切除術、高位結紮術を同時に行うことはできません

  • ・圧迫療法
  • 弾性ストッキングを履くことにより、足を圧迫して静脈の拡張や血液の停滞を抑えようというもので、足のむくみや倦怠感、痛みといった症状を軽減することができます。
    しかし手軽である一方で、この治療法では静脈瘤が消失することはなく、あくまで対症療法に過ぎません
    また、着圧ストッキングは市販されているものもありますが効果が弱く、医療専用のものは着圧が高いがために脱着が難しく、価格も高いという特徴があります。 さらに、静脈瘤の状況によっては弾性ストッキングの着用により、合併症を引き起こしてしまうケースもあります。 これらより、圧迫療法の現実的な役割としては、手術後の補助療法として併用するというのが一般的です

    下肢静脈瘤

  • ・硬化療法
  • 静脈瘤に硬化剤を注射し圧迫することで、癒着・硬化させて治すという局所治療法です。 注射した部分には一時的にしこりが出来たり色素沈着が起こることがありますが、ほとんどの場合は次第に薄くなり消えてしまいます
    現在は硬化剤と空気を混ぜて泡状にしたもの(フォーム硬化剤と言います)を使用するのが主流です。 硬化剤を注入された静脈は血流が遮断され、やがて壊死して体内に吸収されて消失します。非常に簡単な治療法ですが、医療保険の取り扱い上は手術に該当します
    注意が必要なのは、硬化療法はあくまで局所治療であるという点です。つまり、治療の性格上、どうしても再発を避けられません。 特に伏在型に併発したものでは根本治療として伏在型の治療を行わなければ非常に高い確率で再発してしまいます。これはひとの体、解剖学的な素因や静脈瘤の病態に起因するものです
    一方で、最小限の身体的負担で繰り返し治療が出来るという考え方もできますので、これは局所治療の利点と言えるかもしれません

  • ・静脈瘤切除術
  • 硬化療法は静脈瘤に硬化剤を注射して治療するものですが、こちらは直接、拡張した静脈そのものを切除してしまうという治療法で、硬化療法と同じく局所治療に該当します
    具体的には、治療部位に局所麻酔を施し、小さく皮膚を切開したのちに、静脈を引っ張り出して結紮・摘除します。これは、硬化剤では治療効果が低いと判断されるような拡張が強い部位が対象となります
    当然ながら、静脈を切り取ってしまうわけですから、その部位の再発率は極端に低下します。また、すべての静脈瘤を取り除く必要はなく、一部を切除することで残った周囲の静脈瘤も縮小していきます。ただし、硬化療法と同じく、伏在型に併発したものでは伏在型の治療を行うことが推奨されます

  • ・高位結紮術(こういけっさつじゅつ)
  • 高位結紮術とは、伏在静脈がより太い静脈へ合流する手前でこれを結紮して切り離してしまうという手術で、比較的負担の少ない根本治療の1つです
    具体的には、大伏在静脈の場合は鼠径部に、小伏在静脈の場合はふくらはぎに局所麻酔を施し小さく皮膚を切開したのちに、静脈を探して縫合糸で結紮して切離します。 これにより、逆流を起こしていた伏在静脈の静脈内圧が減圧され、さらには伏在静脈へ合流してくる側枝静脈の減圧にもつながります
    側枝型の静脈瘤は伏在静脈の逆流を無くすだけでも徐々に消失していきますが時間がかかります。また、一部が残存することもあり、それについては追加治療を検討することになります。減圧が得られれば静脈の負担も減りますから、局所治療の効果も上がり、再発率も下がるというわけです

  • ・ストリッピング手術
  • 従来から行われている最も基本的な手術で、伏在型の根本治療として行われます。大伏在静脈は内側のくるぶし(内顆と言います)から鼠径部まで、下肢の内側を走行する非常に長い静脈ですが、高位結紮術が伏在静脈を切り離すだけであるのに対し、これを一気呵成に引き抜いてしまうというのがストリッピング(stripping)手術です
    引き抜く範囲は病態に合わせて判断されますが、そもそもの静脈瘤の原因、機能不全を起こしている伏在静脈がなくなるわけですから、治療効果が高いだけでなく、再発率がもっとも低い治療法と言えます。前述の通り、同時に、もしくは後日、残った側枝型の静脈瘤に対して局所治療を追加しても、その治療効果も高くなります
    大伏在静脈は心臓のバイパス手術において、現在でも一般的にグラフト(血液を流すための移植片)として使用されています。つまり、無くなっても下肢の血流に大きな支障を来しません。手術は腰椎麻酔(下半身麻酔)などの下肢全体の麻酔で行われることが多く、安全性への配慮から1-2泊の入院とするのが一般的です。術後の合併症には、広範囲の皮下出血や神経障害、強い痛みが出ることがあります

  • ・血管内焼灼術
  • 古くから行われてきた伏在静脈を引き抜くストリッピング手術に代わり、静脈を内側からレーザーで焼灼することで塞いでしまおうという治療法です
    高周波カテーテル、またはレーザーカテーテルと呼ばれる特殊なカテーテルを静脈内に挿入し、静脈にいわば火傷を負わせることで炎症を起こさせ、その自己治癒効果を利用するわけです。再発率はストリッピング手術に少し劣りますが、身体的な負担が軽く、美容的にも非常に優れているうえ、下半身の麻酔も必須ではないため急速に広がりました。 ただし、レーザーでの焼灼自体は痛みを伴いますので、伏在静脈に沿って広い範囲の局所麻酔が必要です
    ほかに、最近では血管内焼灼術に代わる治療法として、接着剤による血管内治療も認可されています(血管内塞栓術)。これは、カテーテルを用いて静脈の内側から接着剤を注入して血管を塞ぐというものですが、基本的な概念はストリッピング手術や血管内焼灼術と同じで、静脈瘤の元凶である伏在静脈の治療にほかなりません


【excuse】当院での診療について
当院は下肢静脈瘤だけを専門的に治療する医療機関ではありません
かかりつけの患者様には生活習慣病の方から難病の方、担がん状態の方、あるいは定期健診だけを受けに来られるお元気な方やワクチンの定期接種の方、 年齢だけを見ても小児から高齢者まで、非常に多岐に渡ります。あるいは、重篤な肺炎や感染性腸炎などの感染症や不整脈発作や心筋梗塞などを起こしていて、緊急の対応を要する患者様も一定の割合で受診されます
さらには当院の方針として、当院を信頼してくださり定期通院されているかかりつけ患者様の診療においては可能なことすべてを検討し対応するよう、全職員で取り組んでいます

日々の診療においては、これらの受診者に混じって下肢静脈瘤の診療にも対応することになりますので、あらかじめお断りさせていただきます
また、当院は無床診療所のため入院での手術治療には対応できず、必然的に治療法には制限が生じます。さらには、当院の下肢静脈瘤の診療担当医は血管外科専門医ではありません。特にレーザー治療についてはその設備も施術資格も有しておりませんので、より専門的な診療や治療をご希望される方は、当初より下肢静脈瘤診療に特化した医療機関への受診をお勧めさせて頂きます

一方で、下肢静脈瘤は悪性疾患とは異なり、直接的に生命に関わるものではありませんが(良性疾患と言います)、生活の質に影響するという疾患性格上、症状に悩んでいるひとは少なくありません。しかし、下肢静脈瘤の診療に対応する医療機関は、特に診療所に限れば実はそれほど多くはありません

当院では、そのような背景を鑑み、地域医療の場において何かしらお役に立てることがあるならば、診療をお引き受けしようと考えました。もともと、院内の設備は必要十分なものを備えており、当院の診療担当医が心臓血管外科を専攻して来たなかで、下肢静脈瘤の治療経験が数百例に及ぶことからも、まずは気軽に受診・相談できる環境を用意したいと考えました。当院での対応が難しい場合であっても、高次医療機関やほかの専門医への受診を手配するなど、責任を以って診療にあたります

以上から、当院の診療方針としましては、1例でもたくさんの手術を行いたい、積極的に宣伝を行い症例を集めたい、という算術優先の姿勢ではなく、まずは受診された方の病状をきちんと評価したうえで推奨される治療方法を検討・ご提案し、当院で対応できる範囲内である場合には、無理なく、安全に、そして確実な治療効果が得られるように取り組んでいきたいと考えます

当院の少しマニアックな肛門外科診療に、これもまた少しマニアックな下肢静脈瘤診療を加え、それぞれニーズにあわせてご対応していきたいと考えています

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